暑中お見舞い申し上げます(5/6)
 私が説得しようとしても、加南子はうなるような声を出しながら正面を見つめるだけだった。どうも、木陰と日向の境界を見つめているようだった。

「暑そうだなぁ」

「ちょっとくらい我慢しなよ。コンビニまでそう遠いわけでもないし」

 私がそう言い終わるかどうかというとき、頭上からけたたましい音が響いてきた。

 セミのこえだった。

 私たちはゆっくり頭上を見上げた。セミの姿は見えなかったけど、確かにこの木のどこかからか元気の良いセミの声が響いていた。

 これが、私の中でちょっと良いきっかけになった。
 ぼうっと頭上を見上げている加南子の腕を不意を付いてつかむ。加南子は驚いて小さく悲鳴をあげたけど、かまわずそのまま木陰の中から引っ張り出した。

 暑くてまぶしい日差しが私たちに降り注ぐ。思わず目を細める。

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