たとえば、オレンジ色を愛おしいと思ったとき(2/6)
「うー…、頭イタ…」
「飲み過ぎだって。お前、酒弱いくせに」
「だって美味しいんだもーん」
 手のひらで額を押さえながらこっちを見て可愛い声で言ってくる。
「馬鹿っ」
「春杜みたいな全然飲まない人に言われたくないもーん」
「俺は飲めないから良いんだって」
「うぅ…あたしは飲めないのに飲んでるのに…」
「だからそれが馬鹿だっていってんだろ!」
 つい、少し大きめの声で怒鳴ってしまったため、周りのカップルの目線を集中して受けてしまった。
「おっきな声出さないでよー。頭に響くー」
 額を手で押さえながら、少し俯き加減で言った。でも、よく見ると口元は明らかに笑っていた。
 こいつ、ぜんぜん元気じゃないか…。

 そう思うも束の間。
 川面に向けた視線を遮るように一果の手が横から伸びてきた。

「ねぇ、煙草ちょーだい」
 笑顔で俺の顔をのぞき込んできた。すると俺は呆れたように、
「だから、俺、禁煙中だって言ってただろ?」
「へー、ちゃんと続いてたんだー。酒も煙草もやらないなんて、なんていい子なんだろー?」
 とか言いながら一果は自分のコートのポケットから煙草とオイルライターを取り出した。
「持ってるのかよ…」
「いや、貰えたら儲けものだと思って」
 そう言うと一本の煙草をくわえ、”きんっ”と音を立ててオイルライターの蓋を開け、オレンジの火を煙草の先端に灯した。
 一果の横顔が淡いオレンジに照らされるのも束の間、次に”ぱたん”という音がすると煙草の先のオレンジの光しか見えなくなった。

「あ」

 俺が一果の煙草の銘柄をみてつい声が出る。
 一果はそれに気づいて眼をこちらに向けると、「ふぅ」と息を吐く音と共にか細い煙を吐き出し、言った。
「何?」
「その煙草…」
「ふふ…見覚えあんだろー?」
 そう言うと一果は頬笑みながら煙草の箱を俺に見せた。
 その煙草の銘柄は”LOVING DEAD”。外国の銘柄だ。何処だったかは箱を見ればわかるけど、今は思い出せない。ピンクのハートにコウモリのものの様な羽根が生えている絵柄が独特で、それに重なるように綺麗な筆記体で”LOVING DEAD”と書いてある。タール9mg、ニコチン0.8mg。そして俺が以前好んで吸っていた煙草。

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