たとえば、オレンジ色を愛おしいと思ったとき(1/6)
「おい、酔っ払い、大丈夫か?」
「酔っ払いじゃないよぉ…、一果(かずみ)だよぉー」
 俺の肩を借りて一緒に歩いている女性、中原一果(なかはらかずみ)。
 今日は大学のゼミの飲み会だったのだが、一次会で酔いつぶれてしまったこいつを俺の家と近いと言う理由で送り届ける事になったのだ。お陰で二次会に行き損ねた。
「大丈夫か、中原」
「だからぁ、一果だってぇ…。あたしは河井くんの事、春杜(はると)って呼んでるのにぃ…」
 河井春杜(かわいはると)、それが俺の名前。
 一果がそう言うと俺は「はあっ…」とため息をつく。
「一果、大丈夫か?」
「おうよっ! 大丈夫!」
 と、ろれつの回らない声で恐らく元気いっぱい答えた。
 ……どこが…。

 季節は秋の終わり頃、そろそろコート無しでは夜は少し肌寒い気温になってきた。でも、酔いを冷ますには良いくらいだと思った。
「どっかで休むか?」
 終電まではまだ時間がある。
「うー…、どっか2人きりになれるところー」
「で、どこが良い?」
 一果の科白は聞かなかった事にして訊いた。
「うーん、そこら辺」
「………そこら辺って…」
 そろそろ駅が近くなってきた。駅の近くには街の真ん中を流れる川がある。川の周りはよく整備されていて、河川敷はちょっとした公園になっていた。
「河川敷で良いか?」
 冷たい風に少し当たって居れば酔いも冷めやすいだろう。
「おうよっ!」
 さっきみたいな信用の出来ない威勢のいい返事。一果がそう言うのを確認してから、俺は道路から河川敷に降りる階段を、一果に肩を貸したまま降りた。
 河川敷に降りてみると、街灯の淡い光に照らされて、数組のカップルがそこらに座っているのが分かった。
 端から見ると、俺達もそのカップルの類だと見えなくもない。適当なベンチに一果を座らせ、俺も横に座った。

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