ステキだね(1/4)
 ある雨降りの昼下がり。
 街の小さくて静かな喫茶店。
 男2人が2人用のテーブルに向かい合って熱いコーヒーをすすっていた。
「先輩、どうしたんですか? 今日は」
 1人の男がそう言うと、
「あ? いや、別に?」
 ”先輩”と呼ばれた男が応えた。

「そうですか? 先輩が口数少ないのはいつもどおりですけど、今日は何か変ですよ」

「そうか?」

「そんな気がするだけですけど。なんか、嫌な夢でもみたんですか?」

 そう言うと”先輩”は少し驚いた様に向かいの男の目をみた。心底気にかけているような目だった。
 少し考えて、”先輩”は言った。

「キシマ、お前、嫌な夢ってよくみるか?」

「僕ですか? みますけどね。起きたらすぐに忘れるタチです」
 ”キシマ”と呼ばれた男が応えた。

「どんな夢、みたんですか?」

「カエルだよ」

「カエル…? あの緑色の?」

「そうだ。雨降ったときに出てくるあのカエルだよ」
 ”先輩”が如何にも憎たらしいといった調子で言った。

「へぇ…良いですね」
 ”キシマ”は嬉しそうだ。

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